『海でたくさん泳ぎたいな!』
『よし、そうと決まったら早速出発だ!』
そう言って父さんはボクが生まれた時からずっと乗り続けているオンボロ車に乗り込み、エンジンをかけると車はブルンブルンと勇ましい音を立てながら走りだした。
こうしてボクの夏休みは始まった。
街中を走り、海沿いの道を抜けて、橋を3つ渡って走る事1時間半。
ようやく見えてきたのは、【月が浜キャンプ場】と書かれた看板。
看板を曲り、砂利道を抜けると、目の前に現れたのは写真で見るような真っ白な砂浜とエメラルドグリーンの海だった。
場内を暫くウロウロした後、松の木が生い茂った砂浜の前で車を停めた。
『よーし、着いたぞ!』
その言葉と同時にボクはすぐさま車から飛び降りた。
『イヤッッホーッッ!!!ちょっと行ってくるっ!』
家を出る前からすでに海水パンツを履いていたボクは、Tシャツを脱ぐや否や全速力で海に向かって走り、そのまま海に飛び込んだ。
バシャーン!
どこまで泳いでも足元が見える、透き通った冷たい海の中は最高の気分だった。
雲一つない青空を見上げながら波打ち際にしばらく寝転んだあと、ボクはひとまずテントサイトに戻った。
すると
『おい、父さんと母さんはテントや晩御飯の準備をするから、お前その辺でも散歩してきたらどうだ?』
『うん!』
勢いよく返事をしたボクは一人で場内を散策に行った。
先程の砂浜にはボール遊びに夢中になっている子供達、炊事棟には石で出来た流しとかまど、トイレは少し古めかしいけど手入れが行き届いている。
広い場内は一周するだけでも結構な時間がかかったけど、一通り回ってテントサイトに戻ると、父さんと母さんは強い海風に苦戦しながらも楽しそうにテント設営をしていた。
最近はそんな父さんと母さんをの姿を見る事はあまりなかったので、せっかくの二人の時間を邪魔してはいけないような気がしてもう少し辺りを散歩してみる事にした。
父さんと母さんに気付かれないようにテントサイトを離れて先程とは逆の方向へ向かい、防波堤の方へ進んで行くとちょうどボクと同じくらいの男の子が立っていた。
短く刈り上げたスポーツ刈りに、真っ黒に焼けた褐色の肌、腰にナイフをぶら下げた少年の手には、サザエの入った網が握られていた。
『こ、こんにちは。』
恐る恐る話しかけてみると少年は
『キミもキャンプ来たの?』
と返事をした。
ボクはとっさに
『うん。』
と答えると、少年は
『じゃあ、一緒に遊ぼうぜ。俺あっちにサザエがいっぱいある場所を見つけたんだ!』
『う、うん!』
少し戸惑いながらも、足早に岩場の方へ向かう少年を慌てて小走りで追いかけて行った。
少年はどんどん岩場を進みながら、
『俺はコージ、小学5年生。キミは何年生?』
『僕も5年生。かもめ第三小学校に行ってるんだ!』
『え!?かもめ第三小学校?俺も同じ学校だぜ?』
『そうなの!?ボク、4月に引っ越してきたばかりなんだ。人数が多いから同じクラスじゃないと分からない人もいっぱいいるよね。』
一気に話は盛り上がり、サザエを探すのも忘れてあの先生の口癖が面白いとか、4組にカワイイ女の子がいるだとか、話し込む内に、気が付けば辺りは大分薄暗くなっていた。
『あっ!そろそろテントに戻らなきゃ。』
『じゃあサザエは明日の朝採りに行こうぜ!これ、少しあげるよ。』
と言って手に持った網の中からサザエを3つ手渡してくれた。
『ありがとう!』
『そうだ!晩御飯を食べた後、俺の父さんと一緒に焚火しようぜ!』
『オッケー!ボクも父さんに聞いてみる!』
そういってコージと別れたボクはテントに戻ると晩ごはんの準備は殆ど終わっていて、辺りには美味しそうな匂いが立ち込めていた。
大きな木製のテーブルの上で父さんが準備していたのは・・