虫かごの中の動き回るカブトムシを見ながら
『このまま誰にも見つからなかったらどうしよう・・父さんと母さんは探しに来てくれるかな・・』
と心細くなり、思わず涙がこぼれそうになったその時、遠くから聞き覚えのある声が微かに聞こえて来た。
『おーい・・おおーいっ!』
コージの声だ!!!
ボクは声のする方へ夢中で走って行くと、汗だくになりながらボクを探しているコージを見つけた。
『コージ、ここだよ!探しに来てくれたの?汗びっしょりじゃん!』
『当たり前じゃないか!友達だろ!』
と言いながら、ボクの虫かごの中に目をやった。
『あれ!?すごいじゃん!カブトムシとノコギリクワガタじゃないか』
『へへーん。すごいでしょ!』
『すげー!こんな大きいの、オレでも見つけた事がないよ。』
コージに褒められたボクはさっきの心細さはどこかに吹き飛んでしまった。
『じゃあ無事にカブトムシも採れた事だし、そろそろテントへ戻ろうか。』
そういってコージは歩き出してテントの方へ向かって行くと、途中でふと足を止めて振り向いた。
『そうだ、そういえばこれあげるよ!』
といって腰にさげていたナイフを外してボクに手渡した。
『え?これコージのでしょ?』
『いいんだ、まだ他にも持ってるしコレもう飽きちゃったからあげるよ!それにまた迷子になったりした時にナイフがあればいろんな事に使えるしね。』
と言いながらニヤリと笑った。
丁寧に研がれた刃先や、使い込まれた木製の持ち手にコージと彫られていたそのナイフは、コージにとってとても大事な物であった事がわかる。
もう一度返そうとしたが、『いいよ、あげる!』と言いながら走って行ってしまった。
⇒別れの時