『…おーい…おーい…』
テントの外からコージの声が聞こえる。
時計を見るともう約束の6時をとっくに過ぎていた。
慌てて飛び起き、小さな声で
『行ってくるね!』
と父さんに言って、懐中電灯と虫かごを持ってテントのファスナーをゆっくり開けると、待ちきれないと言わんばかりの顔をしたコージが立っていた。
ヒソヒソ声でコージが
『行くぞー!』
と言いながら森の奥へ進んで行き、それに付いてボクも森へ入って行った。
二人で雑木林の中を進んで行くと、一本の木の前でコージが立ち止まった。
『この木なんか良さそうだぞ。』
といいながらゴソゴソと木の周りを探っていると突然大きな声で叫んだ。
『よし!みつけた!』
コージが照らした懐中電灯の先には樹液に集まったカナブンやカミキリムシに混じって一匹のカブトムシが蜜を吸っていた。
『すごい!!!』
初めて見た野生のカブトムシにボクは興奮を抑えられなかった。
『よーし、ボクも見つけるぞ!』
と張り切りながら、どんどん森の奥へと進んで行った。
なかなか見つからず、更に奥へ進んで行くと、一本の大きなクヌギの木を見つけた。
ドキドキしながら裏側を覗いて見ると、先程と同じ様に樹液が滲み出している所があり、そこにカブトムシと一緒にノコギリクワガタまで蜜を吸いに来ていた。
まだ薄暗い明け方の少し肌寒い透き通った空気の中、懐中電灯に照らされたその光景を見て、ボクは宝物を見つけた様な気分になって舞い上がった。
『やった!!!コージ、見て見て!カブトムシとクワガタもいるよ!!』
しかし、興奮して叫びながら振り向いたボクの後ろには誰もいなかった。
『コージ!?』
名前を呼びながら辺りを探してみても見当たらない。
ボクは張り切って森の奥へと進み過ぎてしまい、どうやらコージとはぐれてしまったようだ。
慌てて虫かごにカブトムシとクワガタを入れて、来た道を引き返そうとしたが、同じような景色ばかりで元の道が分からない。
あちこち歩き回ってもキャンプ場は見つからず、途方に暮れてどうしていいか分からずにその場に座り込んでしまった。
⇒迷子