『やっぱりキャンプは山だよね!』
『よし、そうと決まったら早速出発だ!』
そう言って父さんはボクが生まれた時からずっと乗り続けているオンボロ車に乗り込み、エンジンをかけると車はブルンブルンと勇ましい音を立てながら走りだした。
こうしてボクの夏休みは始まった。
街中を走り、信号のない田舎道を抜けて、くねくねと曲がる山道を走る事1時間半。
ようやく右手に見えてきたのは、油断していると見落としそうな、【聖沼キャンプ場】と書かれた古ぼけた木製の看板。
その色褪せた文字からはどこか懐かしさが感じられる。
看板を曲り、初夏の緑が眩しい森のトンネルを抜けると、目の前に現れたのは学校の校庭よりもはるかに広い一面芝生の広場だった。
『よーし、着いたぞ!』
そう言いながらキレイに手入れされた芝生広場の脇をゆっくりと通り抜け、その先にある、木が生い茂った静かな林の中に車を止めた。
『ここにしよう。』
そう言いながら父さんは車のエンジンを止め、トランクから荷物を下ろし始めた。
木漏れ日が差し込む静かな林の中で、側には小さな川が流れ、時折小鳥のさえずりが聞こえる。
ボクは大きく深呼吸をし、その新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
『おい、父さんと母さんはテントや晩御飯の準備をするから、お前その辺でも散歩してきたらどうだ?』
『うん!』
勢いよく返事をしたボクは一人で場内を散策に行った。
先程の芝生広場にはボール遊びに夢中になっている子供達、炊事棟には石で出来た流しとかまど、トイレは少し古めかしいけど手入れが行き届いている。
広い場内は一周するだけでも結構な時間がかかったけど、一通り回ってテントサイトに戻ると、父さんと母さんはテントの設営に苦戦しながらも楽しそうにしていた。
最近はそんな父さんと母さんをの姿を見る事はあまりなかったので、せっかくの二人の時間を邪魔してはいけないような気がしてもう少し辺りを散歩してみる事にした。
父さんと母さんに気付かれないようにテントサイトを離れて先程とは逆の方向へ向かい、森の中を進んで行くと木の間に人影を見つけた。
そっと近づいてみると、そこにはボクと同じ年齢くらいのの少年が佇み、じっとこっちを見ていた。
短く刈り上げたスポーツ刈りに、真っ黒に焼けた褐色の肌、腰にナイフをぶら下げた少年は手に沢山の薪を抱えていた。
『こ、こんにちは。』
恐る恐る話しかけてみると少年は
『キミも薪を拾いに来たの?』
と返事をした。
ボクはとっさに
『うん。』
と答えると、少年は
『じゃあ、一緒に拾おうぜ。俺あっちに薪になりそうな木がいっぱい落ちてる場所を見つけたんだ!』
『う、うん!』
少し戸惑いながらも、足早に森の奥へ向かう少年を慌てて小走りで追いかけて行った。
少年はどんどん森の奥に進みながら、
『俺はコージ、小学5年生。キミは何年生?』
『僕も5年生。かもめ第三小学校に行ってるんだ!』
『え!?かもめ第三小学校?俺も同じ学校だぜ?』
『そうなの!?ボク、4月に引っ越してきたばかりなんだ。人数が多いから同じクラスじゃないと分からない人もいっぱいいるよね。』
一気に話は盛り上がり、薪を拾うのも忘れてあの先生の口癖が面白いとか、4組にカワイイ女の子がいるだとか、話し込む内に、気が付けば辺りは大分薄暗くなっていた。
『あっ!そろそろテントに戻らなきゃ。』
『そうだ!晩御飯を食べた後、俺の父さんと一緒に焚火しようぜ?』
『オッケー!ボクも父さんに聞いてみる!』
そういってコージと別れたボクはテントに戻ると晩ごはんの準備は殆ど終わっていて、辺りには美味しそうな匂いが立ち込めていた。
古ぼけた木製のテーブルの上で父さんが準備していたのは・・